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[Interview] 監督:今西隆志氏 × メカデザイナー:山根公利氏

『08』という作品を語るとき、忘れてならないのはその「ミリタリズム」。それまでのガンダム作品とは一味違った、泥や埃まで見えるような臨場感に、魅力を感じた人も少なくないはずだ。そこで本スペシャル・コンテンツ第2回では、今回の5.1ch化で飯田馬之介監督とともに監督を務めた今西隆志氏と、『08』のメカデザイナーのひとりである山根公利氏の対談をお届け。業界屈指のミリタリーマニアとしても名高い両名が、ガンダムとミリタリーの関係を語る!

リアルなようで意外と「おおらか」?『08』が生んだガンダム的ミリタリズム

――早速ですが、今回は『08』のミリタリズムについて語っていただきたいと思います。ご存分にどうぞ!

今西 いや、語るのはイイんですけど、そのためにはまず神田監督流のミリタリズムについて、理解してもらわないと。神田さんは良い意味での『コンバット』(※62年放映の米TVドラマ。第二次大戦の米陸軍小隊の活躍を描いた作品で、テイストとしては割と能天気)世代ですから、「ミリタリー」と言っても一味違うんですよ。

山根 僕も最初に「ジャングルとガンダム!」って話を聞いたときは、『プラトーン』とか『地獄の黙示録』みたいなものを想像してましたからね。そしたらなんと『コンバット』だったと(笑)。

――ええと。その違いって、どういうことなんで?

今西 例えば陸戦型ガンダムを空挺降下させるシーンで、僕は当然コンテナとかパレットに載せて降ろすんだと思ってたんですね。ところが神田さんは「そんなんじゃダメだよ。こう!」って、ガンダムの背中にパラシュートつけて、手を広げて「ダーッ!」っと飛び降りさせちゃったの(笑)。「じゃあせめてパラシュート3つはつけましょうよ」とか、そうやって生まれた作品なんです。

山根 神田さんのセンスでは、ガンダム=降下兵だったんですよね。そのへんは旧き良き戦争映画風と言うか。

今西 一方で飯田監督も、「北半球では、ライフリングは右回りのほうが精度が上がるのだ!」とか、言いかねない人だし(笑)。考証的な造詣は飯田さんが深くて、神田さんは理屈が通らなくても夢が見られるタイプ。そこは両監督のセンスが、作品の雰囲気に上手く反映されています。だから、観てる人たちはいい意味で「ばかされて」たんじゃないかな? 例えば61式戦車なんて、『08』には山ほど出てきた印象があるでしょ? でも実はあれ、『08』にはオープニングの他には本編では1、2カットしか出てきてないんです。

――えっ!? そうでしたっけ?

今西 実はそうなんですよ。ただ、あの雰囲気のなかでは、それがイメージに残るんですね。ケーキの上に手榴弾乗せてお祝いしてるようなシーンが「いっぱいなかったっけ?」みたいに。

山根 作画さんもすごく描き込んでくれたから、余計印象に残ったんでしょうね。

今西 それと、やはりガンダム作品では初めての試みだったというのも、大きい気がします。ガンダムって、それまでは「宇宙モノ」っていうイメージがあって、地上の歴史はアンタッチャブルな領域だったんですよ。せいぜい『MS-ERA』(※当時発売された、一年戦争の戦場写真風イラスト集)の、噴水の脇にMSがいる絵が、指針としてあったぐらいで。そこに神田さんの、いい意味でファジーなセンスと、「陸戦用の量産型ガンダム」という着想があって、初めて手が出せたと言うかね。あの許容範囲の広さがなかったら、そのあとのゲームとか、何も成り立たなかったと思いますよ。

――巷間思われているほど、ガチガチにリアルテイストの作品では、決してないわけですか。

山根 ガンダムが降下兵しちゃうのも含めて、あくまでアニメの枠内で最適化してあるということです。MSなんか、純粋に機械として描き過ぎると、かえって気持ち悪いですからね。手首をぐるぐる回すぐらいがギリギリで、それ以上に人間を超えた動きをさせちゃうと「絵にならない」。そういうところは、単純にリアリズムとかミリタリズで考えてしまうと、逆にMSの嘘が浮かび上がってしまって、成り立たないんです。

今西 ただ、昔に比べたらミリタリー系の知識が遥かに浸透してるから、神田さん以外の人だったら、ちょっと臆病になってたと思うんですよ。

山根 あ、それはありますね! なんか「バカにされるのがイヤだ」みたいな。

今西 いまの我々に、砲塔がハズれて空を飛ぶ戦車を出す勇気があるのかと!(笑)

山根 そうそう(笑)。陸戦兵器としてはおよそ有り得ない、18mの人型ロボットを使ってる段階で、ホントは「なんでもアリ」なはずなんですけどね。

「絵になるリアル」を可能にした陸戦ガンダムのアナクロニズム

――さりとて実際のデザインでは、MS以外の登場兵器は、どれも現用兵器の地続きに見えますね。

山根 実を言うと、それ自体はあまりデザイン的には難しいことじゃありません。例えば戦車なんかは現実にあるモノですから、資料を集めてきて、ちょっと現用風のリアルなデザインやディテールを取り入れてやればいいんです。ファースト・ガンダムのミリタリーっぽい部分を、時代性に合わせたって感じですね。作画さんも描き込んでくれるのがわかってましたから、楽しんでやらせて貰いました。

――しかしリアリティを盛り込むには、やや苦しい要素もあったんじゃないですか? マゼラアタックとか、元設定の段階でえらい大きさですし。

山根 まあ確かに、いまの戦車と比べたらあり得ないサイズなんで、いまだに「大きい」とは言われますけどね(笑)。でも、そこはMSの動きと同じ理屈で、現用戦車と同じサイズにしちゃうと、絵にならないんですよ。本物の戦車を見れば「大きいなぁ」と思うんですけど、そのまま絵にしてMSの脇に置いても、お弁当箱みたいに見えちゃいますから。キャラクター性を考えれば必然的なサイズだし、それはデザインでも同じです。

今西 山根さんのデザインする戦車、いまの米軍が開発してる次期戦車より、実在感ありますもんね(笑)。さすがに10年も経ってますから、今じゃ本物のほうがよっぽど未来的ですよ。

山根 まあ、もともとガンダム世界って、レーダーを使えなくしてちょっとアナクロな雰囲気を出してたわけですし。リアルと言うより二次大戦風と言うか、戦争映画的でいいんじゃないかと。MSに関しては、今西さんの仰るとおり、陸戦ガンダムの存在が大きかったですよね。当時は「なんでこんなにガンダムがいるんだよ!」っていう声も多々ありましたけど、ファーストのRX-78は宇宙も地上も行けちゃうワケで、性能的にはSFメカと戦車ぐらいの差があるじゃないですか。だから陸戦型ガンダムは、「角がついてるだけでガンダムじゃないですから!」みたいな感覚で、戦争映画っぽい世界に落とし込めましたから。

今西 僕もオープニングのコンテでは、観てる人を幻惑しようとしてました。ガンダムなのに何機いるのかわからなくて、いろんなところで働いてて、しかもぜんぜんヒーローっぽくない。川のなかえっちらおっちら歩いてみたりね。しかも最後はぶっ倒れてて終わり。「終わりか?」みたいな(笑)。

――そのぐらい「すごくないガンダム」がいて、はじめてミリタリックな重厚感が出せた、というワケですね。

「大したことない」と言う人ほど実は恐るべきマニアである、の法則

――ではやはり当時から、そういう戦争映画的で、ミリタリー模型的な陸戦の「匂い」に敏感なファンの熱い視線は、お感じになっていました?

山根 デザインしてるときには、そういう手応えは感じてましたよ。プラモデルでジオラマを作るとき、脇にいる車両とかで遊べる人たちが、「あの世界で陸戦ならこういうモノがあるよね」っていうのを、ちゃんと見てくれているというか。ホバートラックとか、すごく喜んでもらえたし。

今西 だいたいが神田さん自身、サンライズの監督さんのなかでは一番のプラモデル好きでしたからね。作ってない箱を山ほど積みあげて、「コンテ切ってるのかな?」と思うとプラモ作ってたり(笑)。モデルガンもたくさん持ってる、ヘンな人でしたからねぇ。

――そういうスタッフの皆さんの「ミリタリー愛」を、結集した作品でもあったと?

山根 まあ、一口にミリタリーと言っても、その実態は千差万別ですけどね。今西さんは、それこそ「オールレンジ・ミリタリー・マニア」だと思うけど(笑)。

今西 いや、僕は「ミリタリーの人」っていうのは一面だけだよ。 ほかにもちゃんと、好きなモノあるもん!(笑)

山根 それはそうですけど、戦国時代の合戦から現代戦までカヴァーしてる人って、そうそういませんって! 僕なんか「まずメカありき」でしか考えてないし。

――そういえば同じメカですら、プラモデルだと戦車、飛行機、艦船で、きっぱりジャンルが分かれますもんね。

山根 そうそう! 僕も銃とかぜんぜん興味ないんですよ。『カウボーイ・ビバップ』のときに銃の設定をたくさん描いたせいか「好きだし得意」と思われてるようなんですが、むしろ迷惑なぐらい!(爆笑)

今西 山根さんは戦車の人だもんね。

山根 その戦車のなかですら、8割ぐらいが「ドイツ戦車派」みたいに分かれますし。なんでなんだろうなぁ。僕は戦車ならなんでも好きで、どっちかって言うとドイツ軍のは得意じゃないぐらいなんだけど。

今西 いい話ですね〜。山根さんって言動はマトモだけど、そのへんの生態は謎に包まれてるからなぁ。島根県の仕事場はどうなってるんだろうとか、資料はどのぐらい持ってるんだろうとか、そのへんは興味津々だよね!

――勝手なイメージだと、「ご自宅にはミリタリー専用部屋があるに違いない」とか、思ってるんですけど(笑)。

今西 資料の山に埋もれてるとか?

山根 いや、言うほど持ってないですよ。最近はとくに買ってないです。部屋に入らないし。

今西 いまはいい資料がたくさん出てますからねぇ。

山根 本屋に行くと、欲しいものが一杯あるんですよね。観たことない写真とかいい写真が1枚載ってれば、それで欲しくなっちゃうし。で、「コレは!」と思って買って帰ったら、ウチで本棚見て「あ、持ってたわ」とか(笑)。

――恐るべし、ミリタリー・マニアの生態!

山根 でも、僕の世代はもっとスゴイ先輩たちを見てますから、この程度で「持ってます」とは、とても言えませんよ。やはり、2階の床が抜けるぐらいでないと!

今西 でも、本以外はスゴイんでしょ? 島根の家に戦車がズラズラ〜っと。
――それこそ師団単位で(笑)。

山根 プラモはそんなに……ないですよ、たぶん。1個出来上がるまで、同じアイテムは買わないことにしてるし。戦車作りながら他のプラモも作るし、消費者としてあまり業界に貢献していませんね(笑)。

――じゃあ、プラモ以外では?

山根 旧車が3輌(内バイク1台)です。

今西 ……ホラね(笑)。

U.C.HARD GRAPHに受け継がれるミリタリー・マニアの「皮膚感覚」

――なにか、ゲーム世代の対極を行くような、「モノ系」趣味の大魔神って感じですね。

山根 あ、でも確かに、僕ゲーム苦手だからなぁ。昔っから「インベーダーゲーム3回ガマンすれば、ガンプラ買えるじゃん!」って思ってたし。ああいう「カタチに残らないモノ」って、なにかダメなんですよ。おかげでウチにあるファミコン、新品同様だもん(笑)。

――そういう「モノ感覚」って、ミリタリーファンの共通言語な節がありません?

今西 確かに戦争のゲームしか遊ばないタイプの人とは、一線を画しているかも知れないですね。ちょっと抽象的な例えになっちゃいますけど、例えば戦車の錆びた履帯が、骨董市で放出品でゴロっと転がってると、目がキラキラしてくるような?(笑)モノの魅力を「目方で計る」感覚っていうのかな。

山根 たぶんそれって、陸戦系ミリタリーの魅力の源泉のひとつなんでしょうね。原っぱで遊んでいた子供時代の、チャンバラごっことか銀弾鉄砲遊びに通じる、皮膚感覚を伴った質感みたいなものが。だから僕、用途とか機能がはっきりしてるメカが好きなんだと思います。乗り物なんかはその典型ですよね。飛行機は飛ぶために翼がついてるし、車は走るために車輪がついているし。逆にホバートラックは水上も移動できるように、ホバーになっている。そういう説得力を考えながらデザインできるっていうのは、ミリタリーの大きな魅力です。

今西 逆にゲームの世界では、画面の動きはどんどんエスカレートして、皮膚感覚を離れるほど速くなってきたじゃないですか。最近のアニメでも、それに負けじと素早い動きをつけるんだけど、かつての戦争映画のような重厚な動きにも、別の魅力はあるわけです。そういうのって、年取った人を取り残さないためにも必要な気はしますよね。

――お二人がいま手掛けていらっしゃる、U.C.HARD GRAPH (※ミリタリーフィギュア感覚で一年戦争を再現する、ガンプラの新ブランド。ワッパやホバートラックなどの、渋いアイテムセレクトが特長)なんか、まさにそういう「魂にミリタリーが刷り込まれてる人」向けのアイテムというわけですか。

山根 古いモノを時代性に合わせて生まれ変わらせているという意味では、小さい頃に戦車模型で育った人たちを意識している部分は、多分にありますね。

今西 あれから10年も経って、ファンもある程度の年齢になってますし、毎月模型誌を見てる人ばかりじゃなくなってますよね? そういう人がお店でふと目にして、昔楽しんだホビーが生まれ変わって今も健在なのを知ってくれればと。そういう視座に立つと、『08』が広げた陸戦世界というのは、はすごく大きな題材なんです。

山根 もちろん商品は、昔のものより細かくデザインされていてますから、その点では「現役」ですしね。かつてのミリタリーファンの方が、これでもう一度帰ってきてくれたら嬉しく思います。

■ 関連リンク:U.C.HARDGRAPH

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